事業承継税制が後押ししたこと、税制だけでは解けないこと。―特例措置を活用した1,736社の回答から

事業承継というと、

「自社株の相続税や贈与税が大変なのではないか」

と考える方も多いと思います。

非上場会社の株式は、会社が成長して利益や資産が積み上がるほど、評価額が高くなることがあります。

そこで、一定の要件を満たした場合に、後継者が取得した非上場株式にかかる贈与税や相続税の納税を猶予する仕組みとして、事業承継税制があります。

では、この税制は、事業承継のどこまでを後押ししているのでしょうか。

2026年10月9日、内閣府の「税制のEBPMに関する専門家会合」で、事業承継税制の効果についての資料が公表されました。

その中に、法人版事業承継税制の特例措置を活用した事業者1,736社へのアンケート結果があります。

調査は2025年6月に行われたもので、複数回答です。

数字を見ていくと、

「税制で後押しできること」と「税制だけでは解けないこと」

を分けて考える必要があることが見えてきます。

54.7%と45.3%が示していること

アンケートでは、

「早期に事業承継に踏み切ることができた」が54.7%。

「株式の集約が進んだ」が45.3%でした。

この回答からは、特例措置を活用した企業の多くが、早期の承継や株式の集約に一定の効果を感じていたことが分かります。

中小企業庁も、こうした点について、特例措置の創設時に期待された効果が一定程度実現したと整理しています。

ただし、これは制度を利用した企業へのアンケート結果です。

「税制を使ったから54.7%の企業が早く承継できた」という因果関係まで、この数字だけで証明されたわけではありません。

それでも、株式を承継するときの税負担への不安を軽くすることが、事業承継を進めるうえで重要な要素の一つであることは読み取れます。

5.5%を「後継者問題が解けなかった」とは読めない

同じアンケートでは、

「後継者を見つけることができた」

という回答が5.5%でした。

ただ、この数字は慎重に見る必要があります。

今回の調査対象は、すでに事業承継税制の特例措置を活用した事業者です。

制度を利用して株式を承継する段階では、後継者が特定されています。

したがって、この5.5%から、

「残りの94.5%は後継者を見つけられなかった」

あるいは、

「事業承継税制では後継者問題を解決できない」

と結論づけることはできません。

一方で、税負担を軽くすることと、後継者を探し、育て、経営を託せる状態にすることが、別の課題であることも変わりません。

税制は、後継者そのものをつくる制度ではないからです。

「会社の経営状況が良くなった」8.0%も慎重に見る

アンケートでは、

「会社の経営状況が良くなった」

という回答も8.0%ありました。

この8.0%から、

「事業承継税制は経営改善に効果がある」

とも、

「事業承継税制は経営改善には役立たない」

とも言えません。

そもそも、企業の経営状況には、景気、業界環境、経営者の判断、人材、設備投資など、さまざまな要因が影響します。

税制利用企業の自己回答だけで、経営改善との因果関係を判断することはできません。

売上が伸びたことと、税制の効果は分けて考える

中小企業庁は、この1,736社へのアンケートとは別に、事業承継税制を活用した企業の承継前後の売上についても分析しています。

その分析では、親族内承継で特例措置を活用した企業には、承継後の売上が増加する傾向が示されています。

中小企業庁は、税制活用と事業の発展・成長が相関関係にある可能性があるとしています。

ただし、

売上の増加傾向が見られることと、その増加を税制の効果だと断定することは別です。

税制を利用する企業と利用しない企業では、もともとの企業規模や成長性などが異なる可能性もあります。

実際、財務省の資料でも、承継方法による成長率の差について、承継前からの違いを踏まえて慎重に検証する必要があるとされています。

「税制を使った企業が成長している」からといって、すぐに「税制が企業を成長させた」とは言えない。

今回の効果分析では、そこを分けて読むことが大切だと思います。

税制は、承継の障害を一つ減らす仕組み

今回の資料を見て、私は事業承継税制を、

「事業承継を完成させる制度」

というより、

「事業承継を進めるときの障害を、一つ減らすための制度」

と考えると分かりやすいと思いました。

税負担という大きな障害を軽くする。

株式を後継者へ集めやすくする。

承継の決断を前へ進める。

そこには大きな意味があります。

でも、その先には、後継者を育てること、経営を引き継ぐこと、そして会社をこれからどうしていくのかを決めることが残っています。

少なくとも、今回の税制が対象とする株式の承継では、

「株式を引き継ぐこと」と「会社の経営を引き継ぐこと」は、関連しながら進みます。

税金の問題が整理できても、経営の承継まで自動的に終わるわけではありません。

だから事業承継を考えるときには、

「税金をどうするか」だけではなく、

「誰に、どのように経営を引き継いでいくのか」

も一緒に考える必要があります。

今回の1,736社の回答は、事業承継税制が役に立つか、立たないかを単純に決めるための数字ではありません。

むしろ、

税制が担える役割と、税制とは別に準備しなければならないことを分けて考える。

そのための材料として読むと、事業承継の全体像が少し見えやすくなるのではないでしょうか。



参考:内閣府「第8回 税制のEBPMに関する専門家会合」
中小企業庁「事業承継税制の効果分析」
財務省「事業承継税制」