会社は継げても、工場の土地は誰が継ぐ?
実際にあった話です。
その会社は、段ボール箱などを作る工場兼事務所を本社として使っていました。
建物は会社の所有です。
会社も、前社長の息子が継いでいます。
ただ、その本社が建っている土地を持っていたのは、会社でも前社長でもありません。
前社長の姉でした。
会社はその土地を借り、賃料を支払っています。賃貸借契約もあります。
こういう話は、実務では意外とよくあります。
会社が使っている土地が、社長本人や親族のものになっている。
それ自体が問題というわけではありません。
この会社も、今は普通にその場所で事業を続けています。
ただ、承継という少し長い時間で見ると、気になることがあります。
今は、姉と弟
前社長の代では、土地を持っているのは姉。
その土地の上に建つ本社で会社を経営していたのは弟です。
賃貸借契約もあります。
だから、「親族の土地だから危ない」という話ではありません。
ただ、会社はすでに息子へ引き継がれています。
土地にも、いつか承継が起きます。
そうすると、姉と弟だった関係が、次の世代ではいとこ同士になるかもしれません。
さらに代が進めば、親族としての関係はもっと遠くなる可能性があります。
今うまくいっている関係が、そのまま次の世代にも続くとは限りません。
分かっていても、簡単には動けない
こういうケースで、後継者が土地の所有者を知らないわけではありません。
会社から賃料を払っていますし、決算書を見ても分かります。
むしろ、「父も分かっているはずだけど、このままで大丈夫なのだろうか」と、後継者の方が気にしていることもあります。
それでも、簡単には動けません。
今は問題なく使えているのかもしれない。
親族だからこそ、土地やお金の話を改めてしにくいこともあるでしょう。
買い取りを考えれば資金が必要ですし、土地を持っている側にも考えがあります。
理由は会社によってさまざまです。
だから、
「分かっているなら整理すればいい」ほど簡単な話ではありません。
分かっていても、動けないことはあります。
でも、その間にも代は替わっていきます。
土地を持たないなら、契約を見る
では、「会社が土地を買えばいい」という話なのか。
それも違うと思います。
不動産をあえて所有せず、土地を買うための資金を本業や設備などに使う。
土地は借りると決める。
それも一つの経営判断です。
ですから問題は、会社が土地を持っていないこと自体ではありません。
借り続けるのであれば、その関係を次の世代までどう続けていくのか。
今回の会社には賃貸借契約があります。
ただ、その契約がいつ作られ、今後の承継までどこまで想定しているのかは別の話です。
姉と弟の時代には、それで何の問題もなかったかもしれません。
でも次は、いとこ同士になるかもしれない。
そう考えると、
「契約書があるから大丈夫」ではなく、今の契約がこれから先の関係にも合っているのか。
一度見ておく意味はあると思います。
そして、この話にはもう一つ最近の変化があります。
2027年4月以後に始まる事業年度から原則適用される、新しいリース会計基準です。
この基準を適用する会社では、借手のリースについて、原則として「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上することになります。
つまり、
「土地を買わずに借りれば、貸借対照表には出てこない」
とも単純には言えなくなります。
さらに、会計上のリース期間は、契約書に書かれている期間だけを見て判断するとは限りません。
企業会計基準委員会が示している考え方でも、延長や解約の条件だけでなく、その資産を使い続ける経済的な理由などを考慮してリース期間を判断します。
今回の会社のように、借りている土地の上に会社所有の本社兼工場が建っているのであれば、なおさら「土地を今後どのくらい使うのか」は経営上も気になるところです。
もちろん、この会社が具体的にどのような会計処理になるかは、契約内容などを確認しなければ分かりません。
また、新しいリース会計基準がすべての中小企業に一律に強制されるわけでもありません。
それでも、
昔から契約書があるから、そのままでいい。
ではなく、一度中身を確認してみる理由は増えているように思います。
事業承継は、会社の中だけでは終わらない
事業承継というと、どうしても後継者や株式の話が中心になります。
もちろん、それは大切です。
でも、会社が事業を続けるために必要なものが、すべて会社の所有とは限りません。
今回なら、本社の建物は会社のもの。
その建物が建っている土地は親族のものです。
会社の承継と、土地の承継は別々に進んでいきます。
その間に、人間関係も変わる。
経営環境も変わる。
会計のルールまで変わることがあります。
会社を継いだからといって、事業に関わるすべての承継が終わるわけではありません。
こういう話は、実務では意外とよくあります。
だからこそ、土地を買うか、借り続けるかという答えを急ぐ必要はないと思います。
すぐに整理できない事情があってもいい。
ただ、
今は問題なく続いている。
では、次の世代でも同じだろうか。
そこまで一度考えておくことには、意味があると思います。
