会社は同じなのに、決算書が変わる。2027年からの新リース会計

前の記事で、会社所有の本社兼工場が、親族から借りた土地の上に建っている実例を書いた。

そのとき、もう一つ気になったことがあった。

新しいリース会計基準だ。

私はM&Aや経営支援の仕事で、会社の決算書を見ることが多い。

売上はいくらか。利益はいくら出ているか。借入はいくらあるか。

決算書に出ている数字は、会社を考えるときの大切な判断材料になる。

だから最初は、

「借りている土地や建物までBSに載るようになるのか」

という程度に思っていた。

でも、調べてみると、それだけではなかった。

会社の商売は何も変わっていないのに、会社を見るための数字そのものが変わる。

私が気になったのは、そこだった。

借りているのに、資産と負債が増える

2027年4月1日以後に始まる事業年度から、新しいリース会計基準が原則適用される。

この基準を適用する会社では、借手のリースについて、原則として「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上する。

例えば、会社が土地を借りているとする。

土地そのものを所有しているわけではない。

でも、その土地を一定期間使う権利はある。

その「使う権利」を資産として計上し、将来支払うリース料に対応するものを負債として計上する。

つまり、

買っていないのに、資産と負債の両方がBSに出てくる。

これがまず大きな変化だ。

同じ会社なのに、良く見える数字と悪く見える数字が出てくる

ここからが、私には面白かった。

資産と負債が増えれば、自己資本比率などは悪く見える方向に動くことがある。

ところが、これまで賃借料として処理していた費用の見え方も変わるため、営業利益やEBITDAは逆に上がって見えることがある。

キャッシュフロー計算書でも、従来オペレーティング・リースだったものについては、リース負債の元本返済部分が財務活動のキャッシュフローになる。

そのため、営業キャッシュフローが増える方向に働くこともある。

でも、

会計基準が変わったからといって、会社に入ってくる現金が突然増えたわけではない。

同じ場所で営業している。

同じ商売をしている。

同じ契約に基づいて賃料を払っている。

それなのに、決算書上の負債は増えて見える。

一方で、EBITDAや営業キャッシュフローは良く見えることがある。

会社は同じなのに、どの数字を見るかによって印象が変わってしまう。

M&Aで数字を見るときにも、少し注意が必要になる

だから私は、この話を単なる会計基準の変更とは思えなかった。

例えば、ある会社の自己資本比率が前年より下がったとする。

新しく借金をして財務体質が変わったのか。

それとも、新しいリース会計によって、今までBSに出ていなかったものが見えるようになった結果なのか。

同じ「数字が下がった」でも意味は違う。

逆にEBITDAが増えていても、

「この会社は去年より稼げるようになった」

と単純に判断してよいとは限らない。

会計処理が変わった影響かもしれない。

M&Aでも、会社の価値を見るときにはEBITDAを使うことがある。

その数字自体が会計基準の変更で動くなら、基準適用前と適用後の数字をそのまま比べていいのか、リース負債をどう考えるのか、といった確認も必要になる。

数字を見るだけではなく、その数字がなぜ変わったのかを見る。

当たり前のことだけれど、新しいリース会計では、これまで以上に重要になりそうだ。

契約書に書いてある年数だけでも決まらない

もう一つ、調べていて意外だったことがある。

会計上の「何年間借りるのか」も、契約書に書いてある年数だけで単純に決まるとは限らない。

企業会計基準委員会が示している設例には、借りた土地の上に会社が自分の建物を建てているケースがある。

契約期間は40年。

ただし、借手は6か月前に通知すれば解約できる。

それだけを見ると、かなり自由にやめられる契約にも見える。

ところが、その土地の上には会社所有の建物がある。

設例では、建物の物理的な使用可能期間を20年と見積もり、それより前に土地を返せば建物の解体などにコストがかかることなどを考慮して、借手のリース期間を20年と判断している。

もちろん、

「借地の上に自社建物があれば20年」

というルールではない。

契約条件や事業の状況が違えば、判断も変わる。

ただ、前の記事で扱った「親族から借りた土地の上に会社所有の本社兼工場が建っている」というケースを考えると、急に身近な話に感じた。

契約書に何年と書いてあるか。

それだけ見れば終わり、ではない。

だから「借りるのはやめよう」という話でもない

新しいリース会計が始まるから、

「これからは土地を買った方がいい」

という話ではない。

土地購入に大きな資金を使わず、その資金を本業や設備投資に回す。

所有せずに借りる。

それが合理的な会社もある。

会計基準が変わっても、借りるという経営判断そのものの良し悪しが変わるわけではない。

変わるのは、

「借りているからBSには関係ない」

という見方だ。

なお、新しいリース会計基準が、すべての中小企業に一律に強制されるわけではない。

監査対象法人以外の法人、中小企業などについては、引き続き中小企業会計指針や中小企業会計要領に則った会計処理も可能とされている。

自社にどの会計処理が必要なのかは、個別に確認する必要がある。

私が気になったのは、会計処理より「数字の読み方」だった

今回、新しいリース会計を調べてみて、私が一番気になったのは会計処理そのものではなかった。

その数字を見て、会社をどう判断するのか。

自己資本比率が下がった。

EBITDAが増えた。

営業キャッシュフローが増えた。

数字だけなら、いろいろな評価ができる。

でも、その変化が会社の経営によるものなのか、会計基準が変わった結果なのかで意味は変わる。

M&Aでも、融資でも、経営でも、決算書は会社を見るための大切な材料だ。

だからこそ、

会社を見る物差しそのものが変わることは、知っておいた方がいい。

2027年以降の決算書で数字が動いたとき、

「この会社に何が起きたんだろう」

と考える前に、

「会社が変わったのか。それとも数字の見え方が変わったのか。」

一度そこから確認する必要がありそうだ。